皆さんが日頃から何気なく飲まれている麦茶。その麦茶の原料である麦をおいしく育てるために、私たち生産者は、日々、惜しみない愛情を注いでいます。冬のこの時期は麦にとって芽吹きの季節。ここ石巻の麦たちも、寒さの中、ゆっくりゆっくりその芽を伸ばしております。この麦が立派に育つその日まで、私たち生産者の日々を皆さんへお届けしていきたいと思います。
さて、おいしい麦を育てる上で、冬の麦畑には欠かせないことがひとつあります。
それは「麦踏み」。秋に種まきを行った麦の芽を、
文字通り上から踏んでいくという作業です。
せっかく芽吹いた麦をなぜ踏むの? と、可哀想に思われる方もいらっしゃると思いますが、実は、麦は踏んでこそ強く、たくさん育つ植物なのです。麦の芽は圧力をかけられることで、その根の張りが強くなり、強くなった根が支えとなって成長後の倒伏(とうふく)を自ら防げるようになります。
そのため麦踏みは「踏圧」や「鎮圧」なんて表現もされています。それだけではなく、麦は踏まれることで株分けが促進され、新しい茎を増やす「分げつ」が行われやすくなるのです。
また、このシーズン厄介な霜柱による凍霜害の予防にも繋がるため、「麦踏み」は麦の健やかな成長をサポートする大切な工程となってきます。
さて、そんな「麦踏み」も、今ではローラーを使って人手も時間もかけずに行われることが多いです。
でも伝統的なやり方は、人がカニ歩きをしながら麦を踏んでいくという、誰にでも簡単にできる、傍から見たらちょっとおもしろいものなのです。そのため、町の人や学校の子ども達の農業体験の機会としても重宝されたりします。
皆さんも石巻にいらっしゃった際には、是非この「麦踏み」を体験してみてくださいね。 ちなみにこの麦畑では毎年、冬と春の終わりの2回、麦踏みを行っています。(余談ですが、俳句の世界で「麦踏み」は春の季語だそうです。)
そんなこの冬の「麦踏み」、私たちの畑では実はあるモノが代わりを務めてくれたのです。
それは雪。沿岸に位置する石巻では積雪はそう多くありません。しかしこの冬は「麦踏み」をするタイミングに、なんと雪が降ってきたのです。おかげで麦の芽に雪の圧力がかかり、人の代わりに「麦踏み」をしてくれました。
なんとも今年の麦は自然に愛されているようです。
名付けて“雪踏み麦”とでも言いましょうか(笑)。
こんな形でゆるーくお伝えさせていただいたトチの日々。次回も麦の成長を見守る私たちの暮らしを皆さんに知っていただければ嬉しいです。
それではまた。