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ホンモノ体験
北海道夕張メロンソーダ ※記載の内容は2022年8月時点の情報です

メロンソーダの
あの、おいしい香りのヒミツとは?

弾けるソーダと豊かなメロンの香りが魅力のメロンソーダ。暖かくなってくると、あの懐かしい爽やさが恋しくなります。
また、最近は果汁と香りにより、まるで本物のメロンを食べているような味わいを楽しめるメロンソーダまであります。

今回は、そんなメロンソーダの“おいしさ” の鍵の1つである「香り」の秘密に迫りました。

実は、人は香りで味を感じている

皆さんは香りの仕組みについて考えたことはありますか?
普段の生活で毎日感じているはずなのに、その詳細については、一般的にはほとんど知られていません。
人が「いい匂い」「おいしそう」と感じる香りは、一体どのように作られているのでしょうか。今回は、夕張メロンの香料開発をしている都内の研究所に取材をさせていただきました。

夕張メロンと言えば、甘く豊かに広がる芳香が特徴の高級メロンです。その香りを人が特定できるレベルで再現するにはどんな技術が使われているのか、さっそく調香師さんに伺ってみました。

「実は、香料づくりは味覚づくりなんです。」
と、まずは2つのテイスティング用のコップを出してくださいました。

両方のコップには同じ水が注がれています。(味を確かめてみましたが全くです。) 一方のコップに、夕張メロンの香料がスポイト一滴分だけ垂らされます。
そのコップを口元に近づけてみると、1滴で夕張メロンだと分かる香りが、鼻腔いっぱいに広がってきました。しかも、味までしっかりと夕張メロンになっています。
びっくりしていると、

「次は鼻をつまみながら飲んでみてください」と、調香師さん。

すると、何と、先程確かに感じた夕張メロンの味わいがなくなり、元の水の味に戻っています。
以前、鼻をつまんで物を食べると味が分からなくなるという実験をテレビで見たことがありますが、ここまで違いが現れるとは思ってもいませんでした。 味の要は、香り。
そんな香りが一体どのように作られているのか、ますます興味が湧いてきます。

香りづくりは、音楽づくり

香料の調合は、まずレシピ作りから始まります。素材から採取した香りの成分と含有量の分析データを元に、調香師さんが香りの骨格となるレシピを記していきます。なんと今回の夕張メロンの香りのデータは、実際に夕張市のメロン畑まで行って採取してきたそうです。その行動力に、香りに対する強いこだわりを感じます。
ただ、採取した香りの成分をそのままデータ通りにレシピに落とし込めば完成、というわけではありません。ここからがプロの仕事のスタートです。

「実は、香りづくりは、作曲をしていくようなイメージでつくっています。」
調香師さんは、難しい香料づくりをとても分かりやすく説明してくれました。
飲料用の香料の場合、「トップ」という、ボトルを開けた瞬間、口に入れた瞬間のジューシーさを感じさせるパート。「ミドル」という、リアルな果肉感、果汁感を感じさせるパート。「ラスト」という、後味や濃厚な甘さを感じさせ、余韻となるパート。この3つで構成されているそうです。

「3つのパートをどう印象づけようか。イントロとなるトップにインパクトを出そうか。ラストの余韻をどう作ろうか。作曲家が楽譜に意志と想いを込めるように、香気成分のバランスを考えながらレシピを作っていくんです。」

こうして作成されるレシピは、実に数十種類にも及びます。そして、ひとつひとつ香料を再現していき本物感のあるレシピを完成させていきます。

わずか○○g が、おいしい香りを支えている

次は調合の過程です。この作業では、レシピに記した香料の原料を1種類ずつ、秤の上に乗せたビーカーへ入れていきます。しかし、実はこれがすごく難しいのです。

「0.1gぴったりに原料を入れてみてください」と、体験をさせていただいたのですが、素人では何度やってもぴったりにはなりません。慎重にスポイトで一滴ずつ入れていくのですが、どうしてもあと1滴のところで数値をオーバーしてしまいます。
調香師さんは平然とこの作業を行っていますが、0.0001%の誤差が仕上がりに大きな影響を与えてしまう原料もあるので、プロとしての集中力と細やかな技術が必要なのです。

およそ50にもおよぶ原料を計量してビーカーに入れたら、均一に溶けるように混ぜていきます。
そして、プロの研ぎ澄まされた嗅覚がもっとも必要とされる作業が始まります。

香りは、土地の魅力を伝えるメッセージ

「実は香料は、測定した数値どおりに調合をしても本物感のある香りが再現できるわけではありません。香りの感じ方はどうしても人の感覚に左右されます。なので、最終段階では本物の夕張メロンを食べたときの記憶を頼りに、自分の嗅覚と味覚で調整をしていきます。」

調香師さんたちは本物感の再現に必要な原料は何か、香りの原料を足すのか、引くのか。それとも掛け合わせるのか。このようなトライ&エラーを何度も繰り返し、完成を目指していくそうです。

ちなみに、この嗅覚を養うには最低でも10年はかかるとのことです。
プロとしての能力を身につけるため、人並み外れた努力を重ねてきた調香師さん。
その原動力になっているのは、香りの成分採取に協力してくださる産地の方々への想いです。

「本物だと感じられる香りを生み出すことで、多くの人に夕張メロンや夕張の土地のことを知ってもらい、ファンを増やす力になりたいと思っています。」
その想いがあるからこそ、本物感に徹底的にこだわって、自身の嗅覚と、自身が生み出す香りを磨き抜いているのだと分かりました。

香りが広がっていくように、日本中にその土地の魅力を広げたい。
私たちの身近にある香りは、産地の人たちの想いを代弁する、愛とこだわりのこもったメッセージでもありました。

※記載の内容は2022年8月時点の情報です